久しぶりに名著『V字回復の経営』を読んでいます。今回は2023年に増補改訂された『決定版』というやつをKindleで購入しました。この本、私が就活前に読んで「かっこいいなあ」と憧れた本でした。「戦略」とか「再生」という言葉に憧れるきっかけとなる本でした。増補改訂版の前のバージョンでは、この改革の部隊となった会社の実名は明かされていないのですが、私が入社した会社の事業部がその舞台であったことを入社してから知り、大きな衝撃を受けたことを覚えています。
増補改訂版では、冒頭で会社名が空かされました。これを読んでいるだけでも興奮がよみがえってきたので、そのままコピペさせてもらいます。
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実は、本書の舞台、太陽産業の実在モデルは、当時の売上高一兆円の世界企業、コマツである。同社の主力事業は建設機械だが、本書は産業機械事業を舞台にしている。コマツの創業の歴史はこの事業から始まっており、いわゆる会社の祖業である。だがバブル崩壊後一〇年近く、業績不振にもかかわらず激しい改革を避け、最後に追い詰められた。
私は戦略プロフェッショナルの職業倫理として、本来なら仕事先の社名を明かすことはない。そのため、原著の初版を発刊した時点では社名を秘していた。また、原稿を出版社に送る前に社長に読んでいただいた。社長からは一点の注文もつかなかった。
ところがコマツの経営幹部の方々は、本書のことを多くの第三者に話され、ついで日経産業新聞のコマツ特集記事にも書かれ、さらにインターネットでも情報が流れた。だから本書の舞台がコマツであることはほぼ公知の事実になってしまった。 そこで私は、増補改訂版を出す時に社名を明かし、また新企画として改革タスクフォース・リーダーの実在モデル鈴木康夫氏(改革の後、コマツの専務取締役にまで上り詰めた)に、当時の経験を著者と語り合う対談に実名でご登場いただいた。
本書の社長香川五郎の実在モデルはコマツの元社長、故安崎暁氏である。彼は私が人生で出会った最も素晴らしい経営者だった。尊敬と感謝の念をここに記させていただく。少々強もての顔つきで一兆円企業のトップに相応しい威厳があった。確たる戦略観をもっていて、自分が実現したいことは何としても実現させたいという、強い意志を感じさせる「企業家」だった。
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私は、このV字回復の後に入社し、この事業がそのあとにどのような軌跡を描いているかを知っていますので、この本に書かれていることを単なるサクセスストーリーだとは思いません。むしろその後の姿を見ていると、果たして企業再生とは何なのか、何のためなのか、成功とはどの期間で区切った場合の話なのか、長期的に見てこの改革は成功と言えるのか、ということをすごく考えさせられます。
私にとっては、この改革の最初の動機に違和感を感じるのです。それは本書にでも出てくる「雇用だけは守りたい」です。こういうことを言うと、「お前は責任のない立場だからそんなことを軽々しく言えるのだ」と思われるかもしれません。たしかに私にはリストラするような勇気はないでしょう。しかし、悪くなった事業を再生する動機が「雇用を守る」だと、本質的な企業の改革はできないのではないかと思うのです。いったん点滴を打った患者のように一時的に回復はしても、長い目線で回復は難しいのではないか、と。
その理由は、「そもそもその事業は収益を生み出す事業なのか」という冷徹な判断が欠けるからなのでは、と思うからです。長い目で見てその事業は儲かるという判断であれば、企業再生をするのだと思います。しかし、「雇用を守りたいから再生する」であれば、結局長い目で見て、勝てない戦場で戦うわけですから、延命するだけのように、私には感じました。
というのも、私が入社したのは2006年ですから、V字回復してから調子づいている時なのですが、リーマンショック以降、また同じ状況に戻ったからです。そして、本書の冒頭で書かれていることが繰り返されているのを私は見ました。毎年のように「今年が正念場」「さらなる構造改革が必要」というワードが繰り返されました。ベテランの先輩はこう言っていました。「もう20年以上、毎年、改革って言ってるからね。改革慣れしたよ(笑)」。これが現実だと思います。
私はこの著者も、当時の経営陣も、批判するつもりはありません。むしろ改革を成し遂げた稀有な例として、素晴らしいと思います。著者が書かれている日本社会の問題点や、あるべき心構えには心から賛同しますし、尊敬しています。ただ、一社員だったものとしてその後の成り行きを見ると、長期で見た企業再生の難しさや、本来親会社がやるべきであったこととはなんなのだろう、といつも考えてしまうのです。
すみません、久しぶりにこの本を読んで、なんか胸がざわざわしてしまいました。私の文章を読んだら、この関係者は気分を悪くするだろうなとお思いつつ、私が若いときに見た「現実」が、「成功物語」とあまりにもかけ離れていたので、つい、書いてしまいました。
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